「緋瀬さん、笑ってたらとても素敵なのに、どうして仕事中は仏頂面なんですか?」

たまに時計店を訪れる人に対して笑っている姿は見たことがない。

「それは……仕事だからだな。笑うこともないし、癖みたいなものだろ」

「そう……ですか……」

少し、嬉しくなった。

私が初めてお店を訪れたとき、緋瀬さんは優しく微笑んでくれたから。

「菓子を置く皿と茶をを用意してくる」

「あ、私も手伝います!」

靴を履いて緋瀬さんのあとを追う。

細い廊下を挟んで台所が見え、廊下の先、座敷より奥には一つのドアがあった。

「緋瀬さん、あっちは何の部屋ですか?」

お手洗いや台所の場所は以前聞いて知っていたが、奥の部屋だけは緋瀬さんの口から出たことはなかった。

「あぁ。あそこは……外に出るドアだ」

背を向けたまま言って、緋瀬さんはチラッと腕時計を見た。

「行ってみるか?」

「はい!」