その言葉を合図に、屋根から飛び降りてきた何者かが私を押さえる男だけに的確に回し蹴りを食らわした。

「うわっ……」

離された衝撃でバランスを崩す私を抱きしめたのは、愛おしい腕。

「緋瀬さん!」

正体に気づいて顔を上げると、不機嫌そうに眉間に皺を寄せる顔が。

「う……ご、ごめ」

すっ……と手が顔の前に現れ、指で額を弾く。

「いっ……た……!痛いじゃないですか!離れてごめんなさい!」

デコピンの痛さに泣きそうになりながら謝った。

緋瀬さんは何も言わずに私を深く抱きしめた。

「……悪かった。俺がもう少し気をつけていれば」

「……今日のはお互い様です」

ぽんぽん、と緋瀬さんの背中を撫でた。

「……もう一秒たりとも離さないからな」

「嬉しいけど、それは困ります」

少し呆れたところで、遠慮がちに声が掛かった。

「あのう……お二人さん?誘拐犯とボクがいること忘れちゃあ困るな?」