年季を感じる古い建物の写真に惹かれる。

瓦屋根の平屋は夕陽を背に浴びて、影が妖しい雰囲気を醸している。

「……緋瀬時計店」

住所はここからほど遠くない商店街の外れ。

不思議な魅力に誘われるように、この店に行くことを決めた。

服を着替えて荷物を持つと、急ぎ足で部屋を出る。

なんだが、わくわくする。

初めて向かう場所への緊張感と不思議な魅力への好奇心があってそう感じるのかもしれない。

階段を下りてリビングに顔を出す。

「おはようお父さん!ちょっと出かけてくるね!」

「おはよう、衣月。朝ごはんは?」

ソファに腰かけていた父が振り向いて言った。

「うーん、大丈夫!急いでるから!」

「そんなにはしゃぐと咳き込むよ?薬は持った?」

中年だというのに衰えることなく凛とした顔が、心配そうに笑う。

「もう~ちゃんと持ってるよ。心配性なんだから」

幼い頃に体調をよく崩し、散々迷惑をかけていたから仕方ないのかもしれないけれど。

今でもたまに、体調が激しく悪くなるときがあり即効性のある薬を常備している。