待って、行かないで。

「緋瀬さん……!」

離れた背中を追いかけて、後ろから抱きしめた。

「やだ!一緒にいたい!」

やっと出た言葉は、こどもの我儘のようで。

それでも、一番強く願うことだから。

「緋瀬さんが鬼として葛藤するなら私が守るから……!我を忘れて襲われそうになったら何回でも思い出させるから!だから…だから、できればずっと傍にいたい……です」

プロポーズのような告白の最後は、恥ずかしさを帯びて小声になる。

「だめですか、緋瀬さん……」

広い背中に頭をつけて、弱く呟いた。

「…………俺だって」

掠れた声が耳に届き、緋瀬さんが振り向いた。

翻った着物に包まれるようにして抱きしめられる。

すがるようにギュっと強く閉じ込められ、何も見えなくなった。

「俺だって、同じ気持ちだ。はじめて……失いたくないと思ったんだ。隣にいてほしい、笑っていてほしい、衣月との楽しい日々が永く続いてほしい。そう考えるほど終わりが恐くなる」