こくんっと喉が微かに動いて、液体を飲む。

唇の感触は離れ、口の端からこぼれた液体を指で拭われる。

「すぐに終わらせてくる。待ってろ」

そっと地面に降ろされて、低く落ち着いた声の主の気配が遠ざかった。

あれ……?

死にかけのようだった体が少しずつだが楽になってくる。

息苦しさもなくなり、意識もはっきりしてきた。

さっきの液体のおかげ?薬……だったのかな?

地響きと唸り声にハッとすると、数十メートル先に猫のような化け物が血だらけで倒れている。

傍らに佇む人影が刀を腰に戻し、こちらを振り向いた。

長い黒髪の間からは二本の長い角が覗き、切れ長の目を細めてじっと見つめる瞳は紅く冷たい、口元からは牙がちらっと見えた。

着崩した着物から露出する手足は、赤黒く骨ばっていて爪が鋭い。

……あの手、庭で見た。

そのときは恐怖で逃げてしまったけれど、今は大丈夫だ。

立ち上がって、歩み寄る。

「私を助けてくれたんですか?……緋瀬さん」

「…………」