体が宙に浮く。

ぼやけて虚ろな視界に巨大な猫が大きく口を開けているのが映った。

鋭い歯が並んでいるのを見て、痛そうだなぁと他人事のように思った。

そもそもこんなに大きくて化け物じみた猫はいないし、やっぱり悪い夢なんだ。

そう思えてしまうと安心して、目を閉じた。

もう何だっていいから早く覚めて……

「……っ」

体が落下していく感覚。

脇腹への衝撃のあと、風を切ってドスッと何かが突き刺さるような音がした。

……痛くない。食べられてない?

「しっかりしろ!衣月!」

誰?どうして私の名前知ってるの?

かろうじて薄く目を開けると、深紅の瞳と目が合った。

「……?」

硬い手が私の顔を上に向かせる。

「悪いな……許せ」

唇に柔らかな感触があり、口の中に甘く苦い水のようなものが流れ込んできた。