「え……?」

紅い。綺麗な黒髪が揺れる先、緋瀬さんの瞳が。

恐いほどに冷たい表情をまばゆい陽が照らして、見えなくなる。

息苦しさを感じながら、時間が止まったように動けないでいると夕陽を遮るようにドアが閉まった。

「あ、れ……」

薄暗い廊下で目を凝らすと、ドアをじっと見つめる緋瀬さんの瞳はいつもと何も変わっていなかった。

紅くなんてない。見間違い……?

夕陽でそう見えただけかもしれない。

「けほっ……」

乾いた咳が出て、俯く。

「……?」

「大丈夫か?座敷で休んでいてくれ。茶を持っていく」

「ありがとうございます」

台所に向かっていく後ろ姿。

緋瀬さんは掌を強く握りしめていた。

どうしたんだろう……怒らせちゃったのかな……。

「けほけほっ……」

息苦しさが増し、急いで薬を飲むために座敷へと戻った。