台所の前を横切って廊下を進む。

緋瀬さんのすらりと綺麗な手がドアノブを掴んだ。

ドアがゆっくりと開く。

「……!」

「どうだ?驚いただろう」

二人の髪を春の風が揺らす。

「綺麗……」

景色が開いた先では、桜の花びらが軽やかに舞っていた。

お世辞にも広いとは言えないものの、縁側と、小振りでも立派な桜の木がある庭。

沈む夕陽に照らされて、桜の色と陽の色とが合わさり、今までに見たことないほど美しいと思った。

「満開の時期は過ぎたが……まだ花見ができるな」

「じゃあ……けほっ」

今日しませんか?と言い続けるつもりが咳き込んで途切れた。

胸が締め付けられるように苦しくて、持病が顔を出したのだとすぐに判断した。

「すみません。少し水を飲んできます」

顔を上げて緋瀬さんに伝える。

目が合う。