バカみたいに優しい声に、胸がギュウッと締め付けられる。



「な、なんでも……ない……からっ」



口が裂けても夏向に会いたくて、
恋しかったなんて言えるわけがない。



「……ふーん。ふつうなんでもない人が泣くとは思えないけど」


チラッと横目でバレないように夏向を見てみれば、相変わらずこちらを見ようとしない。



「夏向こそ……、なんでここにいるの……」



震える声を抑えながら、どうして夏向がここに来たのかをたずねる。



「……別に。ただ散歩しに来ただけ」



素っ気ない返事の仕方。


これが本当なのか嘘なのか、わからない。


夏向は自分の感情を相手に読み取らせないから、本心がいつも見抜けない。



「そっちこそ、こんな遅くまでどこ行ってたわけ?1人でいたら変なやつ寄ってくるよ」



「……樹里が、遅めの誕生日のお祝いって、パンケーキ奢ってくれたから。

それでいろいろ話してたら遅くなった……」