「あれ、三崎《みさき》、お前まだ残ってたのか」


突然聞こえた声に驚きつつ、声のした方をみるとドアに手を当てて立つ彼がいた。


「岡本先生…」

「おう、帰らないのか?」


授業中のピシッとしたスーツ姿から一変して、部活用のチームジャージを着た先生が首を傾げながら教室に入って来た。


「明日卒業かと思うと、何だか名残惜しくて。少し高校生活を思い返してました」

「いいね、青春だな。俺にもそんな時代があったわ」


しみじみと遠い目をしながら、取れかかっていた掲示板の画びょうをギュッと押し込んだ。


「お前たちと過ごしたのたった一年だったけど、楽しかったぞ」

「それ、ちゃんと授業中に言ってほしかったです」

「やだよ、しみじみした雰囲気で最後の授業しないといけなくなるだろ」

「確かに」

恥ずかしそうに鼻を掻く先生に笑みがこぼれる。

四月に転任してきたところの岡本先生は、まるで最初からこの学校にいた先生であったかのようにあっさりと私たちに馴染んだ。

私たちに真剣に向き合ってくれる彼の人柄の賜物だろう。