「飴、嫌いなんだけど」
「あんたが私があげてる飴舐めながら帰ってるの知ってるんだから。私に嘘は通じませーん」
ちゃんと食べていることをなんで知ってるんだろう。言い返す言葉もなくて、せめてもの抵抗で彼女の頬をつねる。痛い痛い、と涙目の彼女を見たら、気分がよくなった。彼女に関しては、僕は単純なのかもしれない。
僕は彼女がくれた飴だから舐めているんだ、と本当のことを彼女に伝えればどう反応するんだろう。冗談だと笑い飛ばすのか、赤面してくれるのか、戸惑うのか、罵られるのか、それとも残酷に聞かなかったふりをするのだろうか。
コロコロと万華鏡のように変わる彼女の表情が頭の中に流れる。可愛らしくて愛しい。
彼女の瞳を覗く。すると、僕を映す彼女の瞳はゆらりゆらり揺らいで僕を映すのをやめて、そっぽを向いた彼女は取り繕うように言葉を落とした。
「……ど、うしたの?急に考え込んで」
「…別に何も」
「そ、っか…」
妙な沈黙。彼女はどこかを向いたまま。喧嘩したわけでもないし何かをしたわけでもない。だからと言って、僕らにはよくあるものだし、僕にとっては誰かと無言になってしまうのはよくあるもので、そわそわと居心地悪く感じてしまうのは、彼女の性格のせいだと思う。

