彼女の指先が僕の左頬に触れた。

ビクリと肩が揺れて、僕の歩みが止まる。彼女の指先がひんやりしているからであって触られたことに驚いたわけじゃない、と苦し紛れな言い訳を心中で吐く。

まじまじと僕を見る彼女の顔が近づいて。ふーんと不満げに言って、彼女の両手は僕の両頬を小さい子が生き物に無遠慮に扱うように雑に触りだす。心臓がうるさい。


「あんた、ほんと顔いいよねぇ」


肌スベスベだし白いの妬ましい、と彼女に思いっきり頬っぺたをつねられる。なんて理不尽な。


「…痛い」


不機嫌に言うけれど、彼女は僕が本気で怒っていないことを分かっているから反省することもなく、くしゃくしゃと僕の頭を乱雑に撫でる。勿論、僕の機嫌が治らず、ただ僕の心臓の音が彼女まで聞こえていないか心配になるだけ。

いつも突拍子のない彼女の行動に僕の心は酷く掻き乱れていた。恨めしげに睨むと、彼女はひるむ。


「ちょっと、睨まないで。ごめんって。あ、いちごの飴あげるよ。これで、許して」


要るか要らないか返事をしてないのに問答無用にブレザーのポケットに飴を突っ込まれた。頭を撫でてお菓子を渡せば僕は機嫌が治ると思っているのだろうか。彼女の中で、僕はどれだけ遅く産まれてきた設定なんだろう。