「ねえ、水原。」

「……なに?」

「今、幸せ?」

「え?」

「雪加瀬と付き合ってて、幸せかどうか聞いてんの。」

「なにいきなり。」

「楽しい?嬉しい?雪加瀬のこと好き?」

「なんでそんな質問……」

「いいから答えて!」

お願いだから、幸せだって。
楽しくて嬉しくて、……死ぬほど好きだって。
そう答えて。

じゃないと。
……じゃないと凪の覚悟がうかばれない。

「好きだよ。すごく。幸せだ。」

「……っなら!」

手を握る力を強める。
我慢しろ、私。

「その気持ちをずっと貫け!
 なにがあっても、ずっと好きで居続けろ!
 それが、あんたにできる、……凪への唯一の償いだから。」

「っ!梓紗……?」

「私、あんたのこと元々そんなに好きじゃないけど。
 やっぱり私にはあんたの良さが分からない。」

伝えたいことを伝え終わると、私は教室へと足を進めた。

水原から自分の姿が見えないところまで来ると。
張り詰めていた糸が切れて、私は力が抜けたようにしゃがみ込んだ。

……泣かなかった。
私、我慢、できた……。

気が緩むとやっぱりダメで、涙は溢れてきたけど。
水原の前で我慢できたんだからもう後はどうだっていい。

凪。頑張ったんだね。
ずっとずっと、頑張ってたんだね。
家族だって思ったことないって言ったとき。
凪はどういう気持ちだったんだろう。

水原の隣にいられるなら、幼なじみのままでいい。
家族でもいい。

そう言い続けてきた凪が、自分から水原を拒絶した。

凪を構築する大部分だった水原がいなくなって。
凪は……。

「それを埋めたのが、冬野だったのかな。」

凪が幸せになるならなんだっていいんだ。
水原だろうが、冬野だろうが、他の奴だろうが。
誰だっていい。

私じゃその穴を埋めてあげられないから。
友達じゃダメだから。

だから誰だっていい。誰でもいい。だから。
凪を本当に笑顔にして欲しい。

私も泣くのは今日で最後にしよう。
今も頑張って笑い続ける大好きなあの子のために。
私も、笑うんだ。

帰り、自動販売機でミルクココアを買っていってあげると。
凪は笑って喜んだ。

この笑顔がずっと続けばいい。
そう思って、私は泣いた痕を隠すように笑い続けた。