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「ねえ、水原。」

「……梓紗?」

「話、あるんだけど。」

凪が先生に用事を頼まれていない昼休み。
私はひとりで食事をとる水原に声をかけた。

私たちは人気の少ない体育館裏まで移動した。
「体育館裏に連れ込まれるなんて、いい想像はできないんだけど。」

「水原にしてはずいぶんと勘が鋭いんだね。」

「何か要件でも?」

「凪のことで話が。」

「……。」

どうして、水原がそんなに傷ついた顔をするの?

凪の名前を出しただけで。
どうしてそんなに。
まるで、失恋したみたいに苦しそうな顔をするの?

「最近、凪と話してないみたいだけど。」

「それは……。理由があるんだ。」

「理由って?」

「……。」

黙り込む水原にイライラが募る。
こいつのはっきりしないところ、本当嫌い。

「凪の、頼みだから。」

「え?」

「凪が、望んだんだ。」

……凪が望んだ?
どういうこと。

「昔みたいなのが嫌だって。……僕を家族だと思ったことがないんだ、凪は。」

水原がそんな顔をする理由が分かった。

ふたりがおかしくなってから。
凪が水原の方を見ることはなくなった。
頑なに無視して、見ないように徹底して。
無理してるのが伝わってきた。

でも水原は逆だった。
ちらちらと凪の方を見たり、顔色をうかがったり。
気になって仕方ない、そんな感じで……。

でも、そういうことなのか。

ぎゅっと握った手に力を入れる。
皮膚に食い込んだ爪が痛くても私は握りしめるのをやめなかった。