「行っておいで!」

橘花ちゃんに背中を押されたこともあって、私は放課後うみくんに話を切り出した。

「あのね、うみくん。」

「なに?」

「今日行きたいところがあるんだけど……。」

「今から?」

「うん、ダメかな……?」

「今日は読みたい本があるから、明日でも良い?」

「今日じゃなきゃダメなの!」

“ハートのチョコは水曜日限定だからね!”

橘花ちゃんに言われた言葉を思い出す。
今日じゃなきゃダメ……。
来週まで待てないよ、うみくん。

「お願い、うみくん!誕生日プレゼントだと思ってくれて良いから!」

「な、なぎ……」

「お願い!!」

「……凪がそこまで必死になるなんて珍しいね。」

興奮したのか、私は前のめりになってうみくんを必死に説得していた。
恥ずかしくなった私は、前髪を少しいじりながら顔を反対側に向けた。

「……どうしても、行きたいの。」
やっぱりダメかなあ……。
心の中で半分諦めかけていると、

「いいよ、行こう。」

「えっ。」

「凪の頼みだし。一緒に行こう。」

そう笑って、うみくんは行ってくれた。

「……うん!」

お店は中学から電車で2駅先。
賑わっている街中、周りを見渡しながら歩いていると。
男女で並んでいる人が多いお店を見つけた。

「ここ、なんだけど。」

「ここって、この列のこと?」

「……うん。」

「じゃあ並ぼうか。」

「……うん!」

嫌な顔せず、その列に並び始めるうみくん。
きっとすっごく待つことになるのに……。

じわじわ心が温まっていく。

隣で本を読み始めたうみくんの横顔を盗み見ながら。
私はひとり、ほほえんだ。

「いらっしゃいませ。」
30分ほど並んでからやっと私たちの順番が来た。
ドキドキしながら、雑誌に載っていた商品の名前を伝えると。