「…っ、やだ」


私がそう言って奈保くんの手を振り払うと、奈保くんは一瞬、悲しそうに顔を歪めたけれど、それ以上声を掛ける気にはなれなかった。

そのまま私は足早に部屋を出て、階段を下りた。


…香乃ママに、ちゃんとあいさつしておかないと。

そう思って、ふと自分の持っているものを見る。


あ、ゼリー。
作ってきたのに、結局出せなかったな。奈保くんの喜ぶ顔、見たかったのに。半分くらい自分のせいだけど。


「あ、梓ちゃん」


香乃ママに近づいていったら、声を掛けるより先に声を掛けられた。


「香乃ママ…あの、そろそろ帰ります…」

「そう?気をつけてね」

「はい。それであの、ゼリー作ってきたんです。よかったら食べてください」