「梓ちゃん、待って」
「待たない」
奈保くん、今の私、ちょっと怒ってるんだからね。
今なら、奈保くんに何をされても動じない自信があるくらいには。
……なんて、私が勝手にふてくされてるだけなのかもしれないけど、それでも今日くらいは、ただ奈保くんが元気になるだけでよかったのに。
「…梓ちゃん、さみしい」
そう言った奈保くんが気になって、少しだけ振り向く。
「さみしい」という言葉に少しだけキュンときたのを飲み込んで、ふらつく足を戻す。
「…そっか」
それだけ答えて荷物を持つ。
私の足は、もう完全に部屋のドアの方を向いている。
荷物を持った方の腕とは反対の腕が引かれて、私はもう一度だけ振り向く。
「…いかないで」