…いつもなら、服なんて何でもいいはずなんだけど、今日は鎖骨のあたりが隠れる服がいい。
きのう奈保くんに、〝シルシ〟をつけられてしまったからだ。……恥ずかしいけど、服でギリギリ隠せる位置だったから、そこはよかった。そこだけは。
「ただいまー」
「あ、おかえりー」
襟付きの服を探していると、買い物に行っていたお母さんが帰ってきた。思ってたより早い。
念のため、二階にいながらも玄関にいるであろうお母さんに向かって叫ぶ。
「おかーさーん!冷蔵庫に入ってるゼリー、食べちゃダメだからねー!」
「あいよー!」
割とハツラツとした返事をしたお母さん。…アラフィフ目前だとは思えない。
それに、いつもなら「あるなら、ちょっとだけちょうだいよ」とか言うくせに、やけに聞き分けがいい。何か甘い物でも買ってきたのかな。