「…梓ちゃん」
「ん?」
「俺はお姉ちゃんなんて思ったことないよ」
…うん。
香乃にもそんなこと言われてた気がするけど、やっぱり本人から言われるのは寂しいなぁ。
「そっかぁ…お節介でごめんね」
「そうじゃなくて。梓ちゃんは、お姉ちゃんとかそんな枠じゃなくて、梓ちゃんって枠だからってこと」
わ、枠…?
「…よくわかんない」
「俺の中の梓ちゃんの存在に、『梓ちゃん』以外の名前をつけられないってこと」
「それってつまり、心の距離がある…とか、そういう感じじゃないよ、ってこと?」
「うん、そういうこと」
「よかった…」
なんか、私ばっかり奈保くんを好きみたいな感じじゃなくて、よかった。
勝手に「仲良しだ」とか思ってたら、恥ずかしすぎる。
「でもさ、覚悟してね、梓ちゃん」
「え、なにを…?」
「うーん、内緒」
「えー?」
奈保くんの意味深なセリフは、結局その日眠るまで、ずっと忘れられなかった。