シーンと静まりかえった保健室には誰もいない。

なんだ、寝放題じゃん。よし、寝よう

「……は?誰?」

ベッドに寄って見ると誰かいた
寝てるらしい

なんか…すげえ綺麗じゃん

「誰だこいつ。ま隣のベッド空いてるしここでいいや」

カーテンを閉めてから、相手に背を向けるようにベッドに寝転ぶ

にしても 最近弱いやつばっか喧嘩売ってくんな、なんでなんだろ。

まぁ…あたしに手合わせしたい奴多いらしいしな

「なぁ」

「ッ!?」

後ろから声がして 振り返る
寝ていた奴だ。

「お前、2年A組の桜庭仁奈(サクラバ ニナ)だよな?」

「…そうだけど。…いや誰?」

「え、俺の事知らねーの?」

「微塵も。誰?」

「同じクラスなんだけど…?」

同じクラス!?誰コイツ!?
よーく顔を見る。

…あ。

「お前如月仁(キサラギ ジン)だろ!?」

「そーそー。気づくのおっせ」

そうボヤいたこいつは如月仁。
クラス…というか学園の男女問わずの人気者で、イケメンで優しいし文武両道というハイスペック野郎だ。

普段はこいつ、前髪を上げてる。
なのに今は下ろしててメガネだから 気づかなかった

「お前誰だよ。印象全然ちげーじゃねえか」

「あー、まぁここ俺の領域だから」

「いや意味わかんねーわ」

初めて話したけど、悪い奴ではなさそうだ
まぁ、あまり関わりたくないがな

「まぁよろしくしないけどよろしく。じゃおやすみ」

「え、冷たくね?てか桜庭、めっちゃ怪我してんじゃねえかよ」

痛い所を突いてくる如月

「…ほっとけ。」

「オーケー、んじゃこっち来て」

「…あ?何言ってんの?」

奴が寝ているところをとんとんと叩く。
なんであたしが行かなきゃなんねーんだよ。

「桜庭の顔、もっとよく見たい。」

「なっ……なんだお前。もう行くわッ」

甘い声で話すこいつがよく分からなくて、保健室を出ようとした。

「待ってってば」

「うぉわっ!?」

腕を引っ張られて、ベッドに倒れ込む。
反射的に如月に縋った

「な、おま、殴られたいんか!?」

「殴ってもいいからここにいろよ」

真剣な声に変わって、あたしを押し倒して抱きしめた。

こんなこと、当然今までなかったあたしは びっくりしたまま固まった。

理由もなしに人を殴ったりできないから、本当に殴ったりできないし

「ふーん、桜庭 綺麗な顔だな。
少し切れ長の目で…綺麗なピンクの瞳で…鼻筋綺麗で…唇は桜色で…肌はしろ__」

「も、もうやめてくれって……!!!」

あまりにも私の顔の特徴をこれまた優しい声で言ってくるから、私は顔を覆って止めるように言った。

だっ、誰だって恥ずかしいだろ!?

「え……照れてんの?」

「照れてねーし!!!」

「はぁ……」

「んだよ!?」

ため息をついて目頭を抑える如月。
なんだよ人の顔マジマジと見ときながらよ!?

「…顔は美人で口調は男っぽくて性格は可愛いとかなんなんだよお前……」

「…は?何言ってんの……」

こいつの目には一体どんなふうに見えてんだ!?
バカだろ。

「お前のこと、気に入ったかも。」

「は?」

突然何を言ったかと思えば、あたしのこと気に入った?

なんなの、こいつ……