葵音と黒葉は、同じベットで寝るようになっていた。もちろん、恋人のように触れ合う事などないが、黒葉が葵音にくっついてくるので、寄り添って眠ていた。
 黒葉からファーストキスを貰ってからは、キスもする事などなかった。
 恋人でもなく、夫婦でもない女と毎日共に寝るという関係は不思議だった。
 けれど、隣から誰かの鼓動と熱を感じながら眠るというのはとても安心する事だと葵音は知ったように思った。

 そして今日もいつもと同じように2人で寝ていた。
 いつもスヤスヤと眠る彼女だけれど、「おやすみ。」と挨拶をしても、寝入る様子はなかった。今日はどうしたのだろうか?と心配しながらも、仕事の疲れからか、葵音は体を横にするとすぐに睡魔に襲われた。
 普段とは違って、黒葉より前に葵音が寝てしまった。






 
 ベットが軋んだ。

 隣で眠る彼女が寝返りをうったのかだと思い、葵音はあまり気にせずに目を瞑ったまま寝ていた。
 その少し後に少し布団の中に冷たい空気が入ってくるのを感じた。だが、葵音は何かの夢だと思い、その時もそのまま熟睡してしまった。

 隣りに黒葉がいなくなったのに気づいたのは、彼女のぬくもりがなくなり布団の中が寒くなった頃だった。


 
 「んっ………黒葉………?」


 異変に気づいた葵音は、目を醒まして隣に寝ているはずの彼女がいなくなっている事に気づいた。彼女がいたはずの場所に触れると布団がすっかりとぬくもりを失っていた。
 それと共に一気に頭が覚醒してきた葵音は、ベットから飛び起きた。


 「黒葉……?………どこに行ったんだ。」


 トイレに行ったわけではなさそうだと理解すると、葵音は彼女の部屋や台所、作業場や空き部屋を見て回った。けれど、彼女の姿はどこにもなかったのだ。
 

 「また、勝手にいなくなったのか……?」
 

 時計を見ると、夜中の1時を示していた。
 ジャケットを羽織りスマホと鍵だけを持つと、葵音は玄関へと急いだ。
 そこには、彼がいつも履いているスニーカーや革靴だけが置いてあり、黒葉の靴はなかった。
 そして鍵は空いていた。