「これが出来上がるのが楽しみです。」
 「それはよかった。とりあえず、今日はこれでおしまいにしよう。あとは………黒葉にこれをやるよ。」


 葵音は作業場の本棚から1つの本を取り出して彼女に渡した。
 少し古びていたけれど、まだまだ読める本だ。表紙には「シルバーアクセサリーの基礎」と書いてある。


 「…………え、いいんですか?」
 「あぁ。俺が使っていたものだから古いけど、わかりやすい本だ。次にやるのはシルバークレイっていう銀粘土っていう作り方だから、読んでおくといいかもな。」
 「シルバークレイ……。」


 黒葉は、その言葉を呟きながら本を嬉しそう本を開こうとした。けれど、作業場にある時計を見て、それを止めて本を閉じた。
 今はお昼前の時間だったのだ。
 
 それを見て、葵音は咄嗟に彼女を引き留めた。

 「今日の昼はピザが食べたいな。黒葉、注文してくれないか。リビングのボックスにチラシあるから、おまえの好きなの選んで電話してくれ。」
 「葵音さん………。ありがとうございます!」


 黒葉は本を抱きしめながら、お辞儀をしながらお礼を言うと、パタパタと小走りで作業場から出て行った。
 葵音の気づかいに気づいたのだろう。
 黒葉はとても嬉しそうに微笑んでいた。





 昼食後は、温かい日差しが入り込んでくるリビングで2人で過ごした。
 黒葉のジュエリー質問に葵音が答えたり、彼女が作ったお菓子を食べたり、ソファでうたた寝をしてしまったり……。

 こんなにもゆったりとした時間の流れを感じながら、ふんわりとした雰囲気の中、葵音は穏やかに過ごした。
 
 隣には、先程あげた本を読みながらウトウトしている黒葉がいる。
 彼女がいるだけで、こんなに生活が変わっていくとは思いもしなかった。それぐらいに、自分にとって彼女は大きな存在なのだろうと、葵音は感じていた。

 「こんな休日もいいな。」と心の中で呟きながら、彼女の重さを肩で感じながら葵音も瞼を閉じた。