「あーー!!くそっ!!」



 葵音は、髪をくしゃくしゃしながら一人大きな声を出すと、椅子から立ち上がり作業場から飛び出した。
 スマホとジャケットと鍵だけを持ち、部屋を出る。
 彼女が去ってから優に1時間以上経っている。もう深夜という時間に、彼女がどこに行ってしまったのか、葵音はわからなかった。

 葵音は近場を走り回り、そして街中にいき空いている店を見て回った。けれど、どこにも彼女の姿はなかった。

 もう、宿泊しているホテルに戻っているかもしれない。安いビジネスホテルとは言っていたけれど、そんなホテルは山のようにある。黒葉を探すのは難しいのだと葵音は思い始めた。


 走り回ったせいで、呼吸も乱れ、春の冷たい空気が気持ちよく感じるぐらいに、体温は上昇し汗もかいていた。
 葵音は、走る足を止めて息を整えた。そして、「考えるんだ。あいつが行きそうな場所を。」と心の中で自分自身に問いかけて、落ち着かせる。


 彼女が行きそうなところは。
 街中?いや、きっと静かなところだ、と葵音は思った。
 そして、彼女が好きだったものは……星だ。星が好きな彼女がいきそうな所。女の足でも行ける近所を頭の中で必死に探した。

 すると、葵音は1つピッタリの場所を思い出した。


 「………あそこに居てくれよ!」


 葵音の普段運動をしない体は悲鳴を上げていたが、それでも体に鞭をうって走り出した。
 もしそこにいなければ諦めよう。そして、今度は俺があのコーヒーショップで彼女を待ち続ければいいのだ。
 そんな事を考えながら、葵音は目的の場所まで急いだ。