「帰るんだ。」
 「……お願いしますっ!」
 「おまえ、何なんだよ!ネックレス作れって言ったり、話がしたいって言ったり!そして、最後には住み込みで働く?何を勝手に決めてるんだ?たかがナンパで、そこまで人を好きになるのか?」


 葵音は苛ついた気持ちを吐き出すように、椅子から立ち上がり、大きな声で葵音に強くそして汚い言葉を投げつけた。
 女にそんな言葉を言った事などなかった。けれど、高まった感情を葵音は我慢出来なかった。
 勢いよく言い放った後、葵音はハーハーッと荒く呼吸をした。
 
 それを黒葉はただただ悲しい顔で見つめていた。
 そして、小さな声で話し話し始めた。


 「ネックレスを探していたわけじゃありません。ネックレスをしているあなたを探していました。理由は………今は言えません。けど!あなたと話して、そして作ったものを見て、そして作っている姿を見て、あなたに惹かれたんです。それではダメですか?」
 「ダメに決まってるだろ。……何だよ、言えないって。納得できないだろ、そんなの。」
 「それでも……私はずっとあなたに恋をしてるんです。」


 真っ暗な瞳から落ちるのは、水晶のように綺麗な涙だった。
 必死に訴える黒葉の言葉と視線はとても強かったけれど、表情は泣いていた。
 涙を流す彼女を見て、葵音はまた彼女に手を伸ばしたい衝動に駆られた。
 けれど、その手にぐっと力を入れて、それをどうにか止める。
 
 今、彼女と離れてしまえば、それまでになる。黒葉に酷い事を言って罪悪感を感じるのも少ない時間ですむはずだ。
 彼女といると、また同じことを繰り返すのはわかっていた。
 昔、苦しんだ自分と同じになってしまう。


 そうして、葵音は彼女に背を向けて、冷たい言葉を放った。


 「そんな事、聞きたくない。いいから、早く出ていってくれ。」
 「葵音さん………。」
 「早くどっか行けっっ!」


 葵音自身で驚いてしまうほどの大きな声が出てしまった。
 けれども、それで良かったのだ。

 しばらくすると、小走りで作業部屋から黒葉が出ていく音が聞こえた。


 これでよかったんだ。
 ………そう自分にいい聞かせながら、葵音は椅子に座り込んで窓から見える半分の月を呆然と眺めた。