「………どうして、君はここにいるんだ?」
 「え………?」


 そんな事を考えいたからか、葵音は気づくとこんな言葉を言っていた。


 「どうしてって……あなたが助けてくれたから……。」
 「……月のネックレスを作ると言ったら帰ってくれるのか?」
 「それは……。」
 「どうして俺と話がしたいんだ?」
 「………話してみたいから、です。」


 その女は、何故か悔しそうにスカートを両手で握りしめていた。
 彼女がどうしてそんな態度をとったのかは、葵音にはわからなかった。いや、気づかなかったのかもしれない。
 彼女の行動の意味を探すのに必死だった。
 そして、自分が何故彼女は「違う」と思っているのかを知りたかったくて仕方がなかった。


 「………じゃあ、普通のナンパなのか?」
 「なっ……ナンパなんて!!したことありませんっっ!」
 「……知らない男に声を掛けて、話がしたいと引き留めるのは、ナンパじゃないのか?」
 「…………っ!!確かに、ナンパみたいですね!」

 
 初めてそこで自分のしている事が怪しかったと気づいたようで、その女は驚きながら、顔を赤面させた。
 そんな様子を見ていると、彼女が怪しいとも思えなかったけれども、話すことを信じようとも思えなかった。


 「………取り合えず、おまえは俺と話しをすれば満足するんだな?」
 「………それは、その………。たぶん?」
 「…………。」
 「はい!しますっ!だから、話をさせてください。」
 「……よろしい。」


 女が納得する様子もないような気もしたが、葵音はまずは女の話しを聞くことにした。
 彼女に聞いてみたい事は沢山あるのだ。

 それを少しずつ話してたみたい。
 そう思ってる自分がいるのに、葵音はもう気づいていた。

 今日の作業は、とりあえずは予定以上終わっている。彼女と話していても問題ないだろう。


 「名前教えて。…………俺は月下葵音。」
 「葵音さん………。」


 葵音が自分の名前を伝え、そして作業机にあった名刺を渡した。
 すると、彼女は両手で大切に名刺を持ち、名前を復唱しながら名刺をジッと見ていた。

 自分の名刺を受け取って、こんなにも嬉しそうな顔をしてくれる人など今までいなかったので、葵音はなんだか照れてしまう。
 照れ隠しで、「君の名前は?」ともう一度彼女に問いかける。


 「私は、平星黒葉です。」


 そういって、姿勢正しくお辞儀をする彼女が、この作業場にはミスマッチだったけれど、その姿はとても惹かれるものがあった。


 ただひたすらに自分を見てくれる相手がいることに、葵音は戸惑い、それでも心地よいと感じながら、彼女の美しい名前を頭に刻んだ。