人通りの多い場所から、どんどん静かな場所へと移動していく。
女は陽気に鼻歌なんか唄いながら、俺の腕を掴んだまま楽しそうに歩いている。
「ここを通るの!」
しばらく歩いて、木々が生い茂った中に少しだけ道が見えた。
でもそこは身体をかがめないと通れないような道。
道……では、ないか。
「……こんなとこ、なんで通ろうと思ったんだよ……」
「前に出会った黒い猫についていったら、ここを通って行ったの」
「猫についていくって……」
こいつは、やっぱりただの能天気なだけのやつか……?
はぁ、とため息をつきながら女のあとをついていくと、突然、広場のような場所に出てきた。
かがめていた身体を、元の状態に戻す。
「……なんだ、ここ。」
「あれ見て!」
女が指をさした方に視線をやると、そこには、生き生きと咲き誇った、花畑ののようなものが見えた。
「……こんなところに?」
「そう!綺麗でしょ?猫についていったら、ここにたどり着いたんだ!誰も来ないし、私だけの秘密の場所だったの!でもレイは私の“ともだち”だから、特別に教えてあげる!」
「“ともだち”?」
「あれ、違う?仲良くなった人のことを、“ともだち”って言うんだよ!」
「仲良くって……俺ら会って間もないんだけど。」
「時間なんか関係ないって〜!もうこの場所教えちゃったんだし、“ともだち”でないと困るよー!私の秘密基地なのに!」
さわさわと気持ちのいい風が、俺の肌を通っていく。
“ともだち”
何年ぶりだろうか。
そんな言葉を、口に出したのは。
女……紗良は、花畑の方へとまた足を運んだ。
「ほら見て!つぼみもある!まだまだもうすぐ咲くんだよー!いつ来ても、ずっとお花畑なの!春は春の花が咲いてるし、夏は夏の花が咲いてるし、秋は秋、冬は冬の花が咲いてるんだよ!夢みたいでしょ??」
すとんと座って、花を眺めながら嬉しそうに紗良は話す。
「……いつもひとりで?」
「うん!落ち着くの!外なのに誰もいないこんな綺麗な場所、きっと他にないよ!」
紗良はそっと花に手を添える。
そして優しく、花びらを撫でた。

