「だったら、うちにおいでよ!」
「…………は?」
女から放たれた言葉を、すぐに理解できなかった。
「うちにおいでよ!居場所がないなら、うちに来たらいいよ!」
女は前のめりになってそう提案してくる。
意味がわからない。
何を言ってるんだ、この女は。
「ふざけてんのか?何も知らねぇくせに、軽く口出してくんじゃねぇよ!!」
「遊び相手が欲しいの!」
「…………はぁ?」
俺は女の言っていることが全く理解できず、ただ立ちつくしたまま固まってしまった。
「私の遊び相手になってよ!毎日ゲームしたり散歩したり、全部1人で退屈だったの。どうせ死ぬ予定だったんなら、死ぬのやめて私に使われてよ!」
いやいやいや、何言ってんだこいつ。
「馬鹿じゃね?学校の友達とでも遊べばいいだろ」
「学校?私、学校行ってないよ?」
「え?」
学校行ってないって……
「うーーん、世に言う「不登校」ってやつかな?だから毎日お休みなんだーー」
こいつも、こんなナリしてワケアリってやつか?
いやこいつが?
こんなに元気なのに?
「なんで学校行かねぇんだよ?」
「ふふっ、興味ある??じゃー私のお遊びにつきあって!」
「……それとこれとは話がちげぇよ。」
「ええーーー、私は、あなたが必要だと思ったのに。あなただったら、私と遊んでくれるかなって思ったのに!話し相手にもなってくれるかなって思ったのに!!」
子どものように、わがままに、ただ自分の目的のためだけに、俺を呼び止める。
その姿は、なんの汚れもない、「お願い」をする姿だった。
それでも、こいつは俺を目的があって「必要」だと言った。
「俺だったら」って、言ったんだ。
こんな軽い言葉の、こんな見知らぬ女が言った言葉の、何が響いたって言うんだ。
何も知らねぇくせに、よくそんなこと言えたもんだ。
馬鹿馬鹿しい。
見知らぬ女の、ただの「わがまま」だ。
なのに。
なぜか。
俺は、柵の内側に戻っていた。

