「…………俺のこと知らないのに、紗良ははじめから笑顔だった。俺はこんななのに、なぜか、不審がらなかった」
「……そう」
「………………屋上に、いたんです。」
「屋上?」
「はい。ビルの屋上に」
「どうして?」
「…………死のうと、思って」
なぜか、口から出ていたのは自分のことだった。
やばいやつだって思われるかもしれないのに、自分から、話し出していた。
「死にたくなったの?」
「…………俺は、邪魔者だから。俺が居なくなれば、みんな幸せになれるし、俺も楽になれるって、思ったんです。」
「……おうちの人と、うまくいってないの」
「…………両親はいません。だから、親戚の家で世話になってました」
「そう……」
「それで、紗良が止めに来て、「うちにおいでよ」って手を引っ張られて……そのまま、ここに……。でもじきに、出ていきます」
「え、どうして?」
「どうしてって……」
「レイくんが「ここに居たい」って思う間は、ずっとうちに居ていいのよ?」
「…………なんで」
「出ていっちゃったら、紗良が悲しむでしょ。それに、私と旦那だって、せっかく仲良くなる気でいるのに」
紗良の母親は、穏やかな笑顔を見せた。
なんでだ?
なんでなんだよ?
「俺は……知らない奴なのに……警戒しないんですか」
「あなたを一目で見てわかったわ、悪い子じゃないって。」
「どうしてそんなことが、わかるんですか」
「う〜ん、雰囲気?」
「雰囲気って……」
「あと、紗良が連れてきた子だもの。」
「……紗良のこと……随分信用してるんですね……」
「あたりまえよぅ、私の娘だものっ。」
「…………自分の子どもでも、いつ何をしでかすかなんて、わからないのに」
「あなたは何か、しでかしたの?」
「…………!」
紗良の母親からの質問に、俺は一瞬口をつぐませる。
でも、俺はゆっくりと口を開いた。
「……殺した」
「?」
「殺したんだ、両親を!」
紗良にせっかく救われたと思ったのに、俺はまた、地雷を踏もうとしていた。

