紗良の方に視線をやると、俺はぎょっと驚いてしまった。
予想だにしていなかった光景が、目の前にはあったから。
紗良が…………頬に涙を流していた。
「…………!?」
何が起きたのかと俺は焦る。
何か、泣かせるようなことを言ってしまったのか?
頭の中で自分が話した内容を、高速でかけ巡らせた。
すると、数秒もしないうちに、紗良は口を開いた。
「…………レイは……殺人犯なんかじゃないよ…………。」
「…………え?」
紗良はそう言うと、俺の隣に来て、そっと手を添えてくる。
「レイは…………守っただけだよ。お母さんを。レイが守らなかったら、お母さんはお父さんのあやまちで死んでたかもしれない。もしもそうなっていたら……レイはきっと後悔してたはずだよ。「あの時助けていれば」って……だから、レイがしたことは、間違ってないよ。」
両手でぎゅっと、俺の手を握る紗良。
「…………俺は……汚れたんだ。汚れてんだよ。」
「汚れてなんかない!!みんながレイを「殺人犯」だって言ったって、私はレイが殺人犯だなんて絶対に思わない!!レイはすごく優しくて……勇敢で……かっこいいよ。」
…………優しい?
勇敢?
かっこいい?
そんなこと……初めて言われた。
どんな理由であれ俺は人を“殺めた”んだ。
それをこいつは、“優しくて、勇敢で、かっこいい”って言うのか?
なんだよそれ。
なんなんだよ…………それ…………。

