“父さんがいなければ”


“暴力を振るうような父親じゃなければ”




俺たちは、きっと幸せになれたのに……。




気がついた時には、もう父親は死んでいた。




「…………っ零」




詰まる喉から出したような、苦しそうな母さんの声。


カタン、と手からすり落ちた包丁を呆然と見る俺を、母さんは抱きしめた。


泣きじゃくりながら、俺を力強く、抱きしめた。




「…………かあさん、おれが、守るから…………もう、大丈夫だから…………」




静まり返ったキッチンの隅っこで、母さんのすすり泣く声だけが、響いていた。