紗良の顔に視線をやると、真っ直ぐな瞳で、俺のことを見ていた。




「私は、逃げてる。嫌なことから。傷つくことから。

でも、それでいいって、思ってる。

……だって、何がだめなの?

誰が「逃げちゃダメ」って決めたの?

自分が危ないって思ったことから、逃げてあたりまえでしょ?

危ない道は通らない……人間関係でもそう。

危険だって、怪我するってわかってるのに、向かって行く必要ないでしょ?

逃げて自分が楽になれるなら、安心できるなら、逃げた方がいい!

自分が壊れる前に、逃げて、自分が崩れてしまう前に、自分を守らなきゃ!

他人のために自分が壊れる必要なんてない、自分を守るために逃げて、何が悪いの!

私は、自分が壊れるとお父さんやお母さんまでもが壊れることを知った……。

だから、私は逃げた!

私は私を守るために、私の世界を守るために、逃げたの!」




彼女の視線はとても鋭く、さっきまでの穏やかな表情とはまるで違った。


必死に、俺に訴えかけていた。


そして俺の心には、何かが刺さった。