ドーナツと紅茶で、体がじんわりと甘くて温かい気がする。
「……ありがとう、ございます。」
俺が紗良の母親にお礼を言うと、「喜んでもらえてよかったわ♪」と、気分を良くした様子を見せた。
喜んでるように見えた……のか?
「ね!私の部屋行こ!」
紗良から、耳を疑うような言葉が飛び出した。
「え、いやいや……」
女友達でもないんだから、そんな簡単に部屋に誘っていいもんじゃないだろ。
「私のこと、話すって言ったでしょ?」
「まぁ、そうだけど……」
部屋に2人って、母親が許すわけ……
「行ってらっしゃい♪夕飯には降りてきなさいね♪」
許すのかよ!!
親子そろって警戒心薄すぎないか?
初対面の見ず知らずの男を娘と2人にするなんて、なんとも思わないのか……?
「ほーら!いこ!」
紗良はまた俺の手を引いてくる。
意識する方が、おかしいのか?
自分がおかしいのかと頭の中がぐるぐる混ざり合う。
そしてまた、引っ張られるがまま、俺は紗良の後ろをついて行く。
階段をのぼり、一番奥の部屋まで誘導された。
紗良が部屋の扉を開ける。
真っ白な壁に、うす黄色のカーテン。
ベッドと、部屋の真ん中にひとつ、小さな机が置かれてある。
がちゃがちゃとした物は一切置かれておらず、ほぼ何も置かれていないと言ってもおかしくはない。
こんなことを言ってはアレだが、「女の子らしい」、という言葉は、少し思いつかない。
なんというか、とても静かすぎる部屋に思えた。

