目線は斜め下で合わないように。
高さを私に合わせてくれながらも目は泳いでいる副社長に何を期待してしまうのか……
ひょっとしてそっちも緊張してくれてる…!?
表情からそう感じ取れた。


ゆっくりと結ぶ途中で何度もぶつかる視線。
その度に逸らすのはそっちが先。
わざと……意識させてる。
襟を直す時も後ろに手を回すから自然とまた顔が近付いて……


目が合ってフリーズする………


今度は私から逸らして最後、キュッと締め終える。
上手く結べて微笑んだら真っすぐな瞳にまた捕まって……副社長の手も重なる。
自ら仕掛けた罠に自らハマるバカな私……


「ここまでして、この俺に混同するなだって…?」


真剣な声色に妙に落ち着いている自分が怖い。
どこにあるかもわからないスイッチが知らない間に入ってしまってるって言うの…?
手を離させてはくれない副社長に口が勝手に動いてしまう……


「もて遊んじゃ…ダメですか?」


その気持ちが本当なら、この目で確かめてみたいって……
甘い言葉じゃなくてずっとその先………


「なんて。すみません、生意気言いました」


そう言ってサッと手を離した。
不意打ちをついたら我に返ってくれるんじゃないかって。


「神戸製鉄さん、そろそろ来ますよ」


「ああ」


「スケジュール調整しておきますね」


「ありがとう、頼むよ」


午後からのスケジュールはお休みする為調整しなければならない。
何事もなかったかのように部屋を出た。
上手く演技出来ただろうか。
向こうも必死に切り替えようとしてた……
ただただ動揺させただけで私は何やってんだか……