今回、トップである社長は出席していない。
代行する上で重要な相手先の人事もきちんと把握しているので私にはすぐに誰なのかわかる。
わかりたくなかったけど、彼は若手の副社長でありかなり敏腕らしい。
話していた隣の年配の男性はおそらく秘書。



しかし、代行中の動揺は厳禁。
少し新人っぽさも忘れないよう時間ギリギリ使ってプレゼンしていく。
私への依頼は、プレゼンを完璧にこなし橘建設がHIDAKAの開発チームに加われるよう尽力する事。



無事に終了後、トイレにて報告メールを送信する。
結果はダメでもアフターケアとして今後の業績回復に携わっていかなくては。



〈おつ!〉とだけお疲れさまの意味で社長である姉からの返信。
かるっ…!
今頃行ってる代行でウサギに噛まれますようにと呪いをかけたら颯爽とトイレを後にし廊下に出た。



あ〜疲れた、と肩をトントンしながら曲がり角に差し掛かった時。
まだ気を抜くべきじゃなかった。
事務所に戻るまでが代行なんだって一番最初に教えてもらった事なのに。


ドン…!とぶつかった体は軽く吹き飛び天井が見えた瞬間、何かに勢いよく引き寄せられ眼鏡が外れて落ちたが体勢は戻った。
目の前にキレイな男の顔………
ゆっくり視線を合わす。



バチッと目が合えばびっくりしちゃって「すみません」と体を離し、眼鏡を拾った。



「君、確か橘建設の……大丈夫?」


すぐにわかった……
切れ長な瞳に整った顔……
顔面偏差値ハイレベルすぎる……
プレゼン中ずっと目が合ってた副社長……
今、一番会いたくなかったよ……