“その程度の本気ですか?”



前に紗和ちゃんに言われた言葉を思い出す。
違う、そうじゃねぇ…!
遊び半分で追いかけてんじゃねぇんだ。




そこからの俺達は怒涛な流れだったような気がする。



自分で語っちゃうけど、よくぞ耐え忍んだ。
本来ならすぐにでも他の誰かに目移りしていただろう。
さほど恋愛なんざうつつを抜かしている場合でもなかったし。



そうだ、俺、忘れちゃいけない大企業の社長なんだよね。
約1万8000人の社員達を路頭に迷わす事は絶対に出来ない。
まだまだ上昇傾向にある企業なんだ。



たった一人の女の為に人生棒に振る訳にはいかないんだ…!って、心を鬼にしてみたんだけど。



そこはやっぱり……惚れたもん負け、でした。



あ、でも昼間はしっかり仕事で大忙しなんだけど。
プライベートではジムにも通ってるし、最近行けてなかったボクシングもまた再開した。
体を動かす事でモヤモヤを追い出してたんだと思う。



押して押して引く作戦……じゃないけど急に暇を持て余す事に恐怖を感じていた。
時間を見つけては会いに行ってしまってたから。
ほんの一瞬でも会えたら全部持ってかれるから。
悔しいほどに、会わずに気張ってた時間なんて一瞬で崩れ去る。



我慢強い方なんだけど、全てにおいて覆してくるのが乃亜さんなんだ。
ほんの強がりで2週間空けて会いに行ったら…って2週間が俺にとっての我慢の限界だった訳で。



ジープを停めてすぐ事務所から乃亜さんが降りてきた。



タイトなデニムワンピースに腰ベルト、小さなスクラッチバックを手に巻いた髪は片側に寄せて。
やっぱりいつ見ても女神な姿に見惚れてしまう。
一気に胸が熱くなる。