「ごめんなさい…許してくださいって。それだけお願いします」
若干身構える彼女に頭を下げた。
「わかりました、伝えておきます」
帰ろうと事務所を出た時だった。
ちょうど戻って来た一台の車。
黒のベルファイアから降りる乃亜さんを見つけた。
事務所に繋がる階段を颯爽と上ってくる。
途中で俺の存在に気付いて一瞬動きが止まった。
ゆっくり階段を上り同じ段で足を止めてこっちを向いてくれる。
ただそれだけで泣きそうになる。
また無視されると思ったから。
そうなればもう立ち直れない。
「堀越さん?どうしました?」
名字で呼ばれる違和感と何事もなかったような素振り。
でも優しい声だから嬉しくて…ホッとして胸がいっぱいになる。
言葉じゃなくて出て来たのは頬を伝わる涙だった。
もう……乃亜さんの一言一言で一喜一憂してんだ。
またその瞳に映れてんだよな?
俺に話しかけてくれてんだよな?
それがこんなに涙が出るほど嬉しいなんて………
テーラードジャケットにグレーチェックのショートパンツのセットアップ。
髪は巻かずに今日はストレートだ。
久しぶりに近くで見るけど、これが私服だとしたらかなりのオシャレ上級者だよな。
スタイルが良いから何でも似合う。
再びしなやかな手が俺の頬に触れた。
「何で泣いてるの…?」
「もう会ってくれないと思った…連絡しても読んでくれないし」
「え?あ、もしかしてLINE?えーっと……これ依頼のみのLINEなんだよね。私的なメールは全部自動で弾かれるシステムで…」

