辞表はその場で破り捨てられた。
「これだけは受け取れない」
空気が一瞬凍りつく。
これじゃ2人の関係性を自らバラしているようなもの。
ゆっくり視線を合わせると冷静さを見失っている副社長が畳み掛けてくる。
「お前じゃないとダメなんだよ…!お前以外の秘書はいらない…!だから…俺は何度だってお前と契約する」
皆の視線を浴びてる為無理に笑顔を作る。
全員に向けて頭を下げた。
「本当に突然で申し訳ございません、短い間でしたがお世話になりました」
「深山っ……!」
「未熟な秘書で申し訳ありませんでした。次の秘書は私より優秀な人材ですので今後とも弊社を宜しくお願い致します」
荷物を持って下がる。
階段の方へ歩き出すと再び私の腕を掴む副社長。
言葉はない2人だけの会話。
見つめ合う先に決して交わらない未来が見えた。
小さく聞こえるか聞こえないかの声でサヨナラと告げたの。
私から手を離した。
静かな朝のオフィスフロア。
無機質なヒール音だけが鳴り響き、やがて消えた。

