「わかっている」



「あ、もし他に代行してほしい事があれば何なりとお申し付けくださいね」とウィンクしてやがる。
姉に呆れつつも俺に頭を下げる彼女。
控えめな部分もどストライクだ。



早く、早く、



「深山秘書」と呼びたい。
いや、「深山」か?




考えただけでつい口元がほころぶ。
これから始まる二人の世界にニヤニヤしてしまうのは俺だけか?



深山 紗和!!
お前は必ず俺が落としてみせる!!
口だけじゃないってところ見せてやるから。
代行してない日も俺が頭から離れないってくらい心を占領してやるさ。



時間の問題だ………って、思ってた。



初めて、秘書として本社に現れた姿を見た時。
橘建設の時とは全然違う。
顔つきも自信に満ちてると言うか、一皮剥けたような垢抜けた感じに仕上がっている。



「本日付けでお世話になります、秘書の深山 紗和です」


さすが秘書技能検定1級の貫禄。
橘建設ではまだ不慣れな社員の役柄だったからか、秘書という肩書きが付けばこうも変わる。
ある意味女優だな。



挨拶代わりに顔を近付ける。
当然、身構えるだろう。



「秘書になったら…眼鏡はかけないんだな」



動揺してる?
もし眼鏡をしてきたら取って、ない方が綺麗だと言ってやったのに。
「かけた方が宜しいですか?」と尋ねてきたから要らないと答えた。


まずは技量審査だ。
林に予め用意させた俺に対しての分厚いマニュアルを手渡す。
コーヒーの入れ方から仕事中の接し方、出張時の決まり事、会議での決まり事等をこと細かく記した、いわゆる日高 響也のトリセツみたいなものだ。