「あ……有美子、大丈夫か?また飲み過ぎたんだろ?お前いつもだな…っ」
俯いて立っているから覗き込むように話しかけた副社長に隙があったかどうかは確かじゃない。
私が視線を向けた時には……無理やり唇を奪う有美子さんの後ろ姿とフリーズしてる副社長が映ってた。
どれだけ準備してても、想像してても、身構えていても……
私………このケースに関しては………対処法が身についていない
ほんの一瞬だったかも知れない。
長い時間だったかも知れない。
目に入ってきた映像に心が追いつかなくて……呆然と立ち尽くす。
首に手を回して強引に重なってる。
水を持ったまま我に返った副社長は強く突き放したけど、もう遅い……
紅いリップがついちゃってるもん……
「お前っ…飲み過ぎだ、ふざけんなよ」
悪びれる様子もなく横顔が笑ってる。
「私、帰る」と言って立ち去った後、残された私達は不穏な空気を肌で感じていた。
「紗和…」
近付いて来る前に拒絶する。
「私も帰るね…」
水を置いてすれ違う私の腕を掴む。
ねぇ……一体どんな言い訳するの?
悪いけど……聞きたくない。
今……そんな余裕ない。
「ごめん……傷付けて」
へぇ……謝るんだ。
有美子さんの事……庇うんだね。
「あいつ……酔うといつもああで…」
「ごめん……今日は帰らせて…?見送りもいらないから」
掴んだ手を離そうとしてもグッと引き寄せられて顔を見られた。
一番見られたくない瞬間なのに。
「泣いてんじゃん…」

