もう売り言葉に買い言葉状態でどんどんエスカレートしていくのは目に見えてるのでここは一喝。
「ちょっと待った」をかけた私。



「売るとか買うとかの問題じゃないでしょ、お姉ちゃんも企業理念忘れない事!私自身務まるかわからないので、とりあえず代行秘書でクライアントに様子を見て頂くという事でどうですか?」



とにかく私を売るなっ…!
双方が納得した形でようやく契約が交わされたけど……
これからどうなる!?
スケジュール調整した後、早くて一週間後に私はあのHIDAKAグループにて副社長の秘書となる。



何が起きるか全く想像出来ない……



「改めて宜しく」と差し出された手。
この手を握り返せば新たな自分が生まれるんじゃないかと思った。
ここまで必要としてくれるのなら精一杯の仕事をしよう。
私にしか出来ない事を見つけよう。



両手で迎え入れるその手には自信と覚悟が満ちている。



「改めまして、深山紗和です。全力で代行させて頂きます」




少し苦手だと感じていたあの瞳に、毎日映る自分をこの時誰が想像出来ただろう。


「もう離さない……どこにも行くな」



耳元で甘く囁く声に幾度となく心が折れそうになる。
代行である事……忘れさせないで。
ズルくて…甘く…危険な駆け引き。



代行業者とクライアントは恋愛関係であってはならない。



日高副社長、



肝に銘じてくださいね。



私はあなたの代行秘書なのです、



最初から………最後まで………



それが今日交わした契約です。



契約違反は御法度ですよ?
規律に基づき、その時点で契約解除になるので忘れないでくださいね………