「出て……ください」
腕の中に紗和が居るのに行けるかよ。
こっちが大事に決まってんだろ。
鳴り止まない音を無視して顔を近付けてく。
俯いて拒否される事くらい始めからわかってるよ……
もしかしたらって僅かな期待をしてしまう男の心理見抜くなよな。
「仕事の件かも……だから出て?」
またそうやってお預けなのか…?
まだ鳴り続ける携帯にイライラしながら重い足取りで取りに行く。
紗和の言った通り大事な電話だった。
早めに切り上げてリビングに戻ったのにもう着替えてて……
「帰りますね」
「あ、送るよ」
「いえ、タクシー呼びます」
携帯を取り出した瞬間取り上げた。
「送るから。色々…迷惑かけたし……それくらいはさせてくれ」
部屋からストールを持ってきて着けさせた。
「あ、あの……」
「着けとけ……目のやり場に困る」
昨日は会場にマッチしていたけど胸元開き過ぎだから……
「ありがとう…ございます」
身構えるとすぐに敬語に戻る。
今日は秘書じゃないはずなんだけどな。
道案内してもらいながら車を出す。
会社からそう遠くはない。
「あの、ここでいいです」と言った場所で停める。
助手席の紗和は謙遜しながら外を指差す。
「ここのマンション…です」
そう言われ見上げたマンション。
知ってる……知ってるよ。
良かった……本当の事教えてくれて。
嘘つかれたらどうしようかと思った。
前に一度、確かめた事があったから。
「ん、昨日も今日もありがとうな」
「いえ、送ってもらってこちらこそありがとうございました」
「じゃあまた会社で」
「はい、失礼します」
笑顔で帰って行く後ろ姿を見届けた後すぐ車を発進させた。

