今、彼の薄桃色の唇から放たれた言葉の意味がうまく呑み込めなかった。


だから私はただ、唖然と彼を見つめたまま。

彼は心配そうに、硬い無表情で私を見つめ返す。



「あれ。聞こえない?」

「……」

「うちにくる?って聞いたんだけど」



怪しい。苦しい。危険な目に遭うかも。もう疲れた。どこからどう見ても不審者でしょ。お腹だってすいた。信用できない。暖かいベッドで寝たい。どこの誰かもわからない。もう、さすがにどこかで休みたい。


…だけど人を信じられない。



私は薄っすらと唇を開いて、



「……」



それから目の前がふ、と暗くなり身体から本当に力が抜けて、座ったまま横に向かってどさりと倒れ込んだ。

そのまま、意識もずぶずぶとどこかで吸い込まれるように消えていった。