最初の日記は、そこで終わっていた。
私が顔を上げると、施設長は眉を下げて笑う。
ノートを閉じると、施設長は口を開いた。
「波留ちゃん、理解したかい?」
「お父さんと、お母さんは、本当に、
死んじゃったの?」
こくりと、施設長が頷いた時、
私の目に涙が浮かんだ。
「もう、会えないの?」
大好きな、お父さんとお母さん。
笑顔の絶えなかった家族の輪が、
音を立てて崩れていく。
視界が歪んで施設長の顔が朧げになる。
バサリと、ノートが音を立てて落ちた。
施設長が、私を優しく抱きしめる。
それが昔お母さんにそうされた時みたいな感覚で、涙腺が崩壊した。
私は声を上げて泣きじゃくった。
もうこの世にお父さんとお母さんがいない。
私は、一人だ。独りぼっちなんだ。
さよならも言えなかった。
お父さんたちの最期も見守ることも出来なかった。
その上、死んだことも忘れていたなんて。
こんなことってある?
私、何か悪い事でもした?
どうしようもない悲しみと、
やり場のない怒りに包まれて、大声で叫んだ。
お父さん!お母さん!なんで死んじゃったのよ!
私を独りにしないでよ!
私はこれから、どうやって生きていけばいいの!
「波留ちゃん、おじさんと頑張ろう。
君は一人じゃないんだよ」
「でもっ、私は……!」
「ノートを読むんだ。そして、書くんだ。
君にはそれしか残されていないんだよ」
施設長の言葉は、深く私の胸に突き刺さった。
それしかない。今の私には、何も希望はない。
病気を患って、一人では生きてはいけなくて、
それでも、この足元に転がっているこのノートだけが、
私を形どる唯一の媒体なんだ。
私はこのノートと、向き合っていかなければいけない。
そういうことなんでしょう?
その時私は、施設長にひどく当たってしまったと思う。
理不尽な言葉をぶつけてしまったような気もする。
それでも施設長は怒ることもなく、
優しく私を慰めていた。
その温かさに、更に泣きたくなった。
ひとしきり泣いて、涙も枯れた頃、
施設長は言った。
「帰ろう」
「……うん」
私の帰る場所は、もはやこの人のところしかない。
そう理解するのに時間はかからなかった。
落ちていたノートを拾い上げて、私は胸に抱えた。
施設長に手を引かれ、私はもと来た道を歩いた。
枯れたと思った涙がまた溢れてくる。
抗いようのない現実に打ちひしがれながらも、
負けるものか、と唇を噛みしめた。
負けてなるものか。
私は絶対、この運命の前に屈したりしない。
どことも分からず目の前を睨みつけた。


