ちょうどその時部屋の扉がノックされた。
私はびくりと肩を震わせて、
小さい声で「はい」と呟いた。
「入るよ」と、柔らかい声が聞こえた。
数秒経ってから、扉がゆっくりと開く。
扉の向こうに立っていたのは、
三十代くらいのおじさんで、
赤と黒のチェックのポロシャツを着ていた。
細身の体にそのシャツがとても似合っていて、
おじさんはかけていた黒ぶち眼鏡を中指でかけ直した。
私を見るとにっこりと笑って部屋の中に入ってくる。
私は苦い顔をしておじさんを睨みつけた。
「心配しなくて大丈夫だよ。
私はここの施設長だ」
「施設、長……」
私はノートに視線を落とした。
ノートにも、「施設長」が出てくる。
ひょっとするとこれは、まさか、本当の話なの?
「ノート、読んでいるようだね。全部読んだかい?」
ふるふると首を横に振る。
するとおじさん、施設長はゆっくりと頷いて、
また眼鏡をかけ直した。
「ゆっくりでいい。
まだ時間はたっぷりあるからね」
施設長は何度も頷き、にっこりと笑う。
私はぱっとノートに顔を近づけて続きを読んだ。
―びっくりした?いよいよ私の話を信じる気になった?
ここで本題にはいるよ。
私の今置かれている状況を説明するね。
あのね、私は、記憶が一日しかもちません。


