施設長と真剣に向き合って、
私はより詳しく現状を教えてもらった。


前向性健忘。
記憶が一日しかもたないというのが症状の一つ。


私の場合、事故を境に記憶がもたなくなってしまったらしい。


施設長に引き取られてから五ヶ月が経ったという。


事故から最初の頃まで通っていたという高校は、
病気のせいでこじれてしまった人間関係の悪化により退学したらしい。


とにかく今は、好きに生活していくことが一番だと、施設長は言った。


この施設「カリタ」では私を含めて六人の子どもたちが暮らしている。


高校生は私だけみたい。


他はみんな両親のいない小学生くらいの子どもだった。


施設に特にこれといった決まりはないけれど、
食事だけはみんなで食べる。


大きな食堂に案内されて、朝と夕に揃って食べるらしい。


お昼にこの施設にいるのは私だけなんだって。


私が日記を書くようになったのは三日前。


記憶を失くしてパニックになる私に
どうしたものかと施設長が考えて
ノートを一冊買ってきてくれたことがきっかけで、
私は日記を書くようになった。


日記を書くようになってからはだいぶ安定したらしい。


これでも安定したうちに入るんだから、
当時の私は相当ひどい状態だったに違いない。


施設長は話し終えると、にっこり笑って私の頭を撫でた。


これからは好きなように時間を使って、
好きなように生活しなさいと、優しい声で言った。


私は頷いて自分の部屋に戻り、もう一度辺りを見渡した。


とりあえず、着替えてみよう。


起きてから今まで、パジャマ姿だったことに気が付いて、
私はタンスを開けた。


適当に服を選んで着替えて、ふぅっと一息つく。


そしてテーブルの前に座ると、ノートを見つめた。


とにかく続きを読んでみよう。
読まなきゃ始まらない。


私は深呼吸をしてノートを開いた。