秋人の啜り泣きに呼応して、他の生徒たちの動揺も波の様に広がっていく。

とんでもなく危険な拷問器具に座っている今の状況を、ようやく理解し始めたのだ。

やがて恐怖のダムは決壊し、生徒たちはみな一斉に教室の後方へ一目散に走り出す。

それを見て、女教師はただ面白そうに嘲笑するだけだった。


「いいんだぞ? 連れて行かれたければ、そこでジッと三分間立っているだけでいい。拘束ベルトもなければ暴力を振るう者もいない。何をしてもお前たちの自由であることを約束しよう」


そして、泣きじゃくる秋人を見下ろして彼女は真顔に戻る。


「それからもう一つお前たちに約束をする。一年間、この教室に最後まで残った者はちゃんと家に帰してやる、と」

意地の悪いその言い回しを理解できる者は少なかった。

中学一年生程度の歳に過ぎない少年少女であれば、目先の恐怖から一刻も早い解放を願ってしまうのは仕方のないことだ。

だが――


「僕……座るよ」


震える声と共に、秋人はヨロヨロと立ち上がって椅子に恐る恐る腰を下ろした。


「いいのか? また痛い目を見るかもしれないぞ?」

「ビリビリはイヤだけど……でも僕たちはきっと、ここから出ちゃいけないんだと思います」

「――お、お前バカかよッ!」


壁際から大柄な男子生徒が耐えかねて叫んだ。


「そのイカレた教師の気まぐれで作動する電気椅子に、自ら座って一年過ごせだって!? さっきの電流で頭がおかしくなったのか!?」

「分かんないよ! 僕だって先生の言っていることなんて全然分かんない! けど……」


秋人は、女教師の吸い込まれるような黒い目を見返す。


「分からなきゃいけない気がするんだ……」


すると彼女は一瞬奇妙な表情を浮かべた。


「お前は――」

「え? な、何ですか?」

「いや、何でもない」


キョトン、と小首を傾げる秋人から女教師はすぐ目を逸らした。

何事もなかったかの様に、もう言うべきことは言い終えたと言わんばかりの態度で他の生徒たちを黙って見渡す。


「チッ……わけ分かんねえ……あんなバカの言うことなんか聞けるかっ」


先程の男子生徒はイライラと吐き捨てたが、その隣の黒髪の少女はゆっくりと前へ進み出た。


「おい、お前正気かよ!?あんな見るからにヤバそうな奴の言いなりになるのか!?」


彼の制止も聞かずその女子生徒は机の中を進むと、泣きそうな顔をしながら自分の席に着いた。


「わ、私も、頑張る……だって、逃げるのはイケナイことだと思うから……!」


震えながら途切れ途切れ呟き、彼女は振り返る。


「ねえ……みんなも席に着こうよ。悪いことをしなければきっと先生も優しくしてくれるわ。それに……先生の言うことはちゃんと聞かないとダメだよ。イケナイことをしたら、もっとツラい目にあうかもしれないもの」


必死に絞り出された彼女の言葉に心を動かされたのか、少しずつだが他の生徒も徐々に席に戻り始める。


「ほら、そろそろ一分を切るぞ。そんなにゆっくり歩いていたのでは間に合わないんじゃないのか?」