「……え?」


思わず、声にならない声が漏れた。


「これを見ても、お前はまだ『オトモダチ』とやらを守る為に杉浦拓真を処分するのか?」


『ペインター』先生の口調は、決して威圧的でも脅しているわけでもなかった。

ただ、静かに東雲秋人の答えを待っている。それだけだ。


「りんちゃんが……最下位……? そんなことって……」

「――秋人!」


動揺する秋人に、新二が勢い良く立ち上がって怒鳴った。


「これ以上それを見るな! 早く杉浦を『強制連行』させろ!」

「ふざけるな竜崎新二!」


それに負けじと、杉浦が叫ぶ。


「さてはお前、こうなることをある程度予測していたな! そうでなければもっと動揺してもいいはずだ!」


地獄に垂らされた蜘蛛の糸を見つけたとばかりに、猛然と責め立てる。


「そして事実、夏宮凛香は最下位だった……彼女はここに止まれば、クラス全員を危険に晒す不良品であることが確定した! それにも関わらずお前はエゴを優先して僕という優秀な人材を切り捨てようとしている! みんな見たか! これが竜崎新二という悪魔の本性だ!」


杉浦の弁舌に、今まで口を挟めなかった生徒たちも再び新二に怒号を浴びせる。

だが、あくまで新二は冷静だった。


「うるせえ、外野は黙ってろ。本当はついさっきまでお前らも思ってたんじゃねえか? 『杉浦も結構ヤバい奴だから強制連行になってもいいか』ってな。だから俺らの争いに口を挟まなかったんだろ」

「さっきとは全然状況が違う! 分かってるのか⁉ 夏宮凛香の様な落ちこぼれを生かしておけば、クラス全員が脱落する危険があるんだぞ⁉ それを君は何が何でも生かそうとしている。僕だけじゃない、今君は決定的にこの教室全体を敵に回したんだ!」

「そうかもな。だがそれがなんだ? 実際に今この瞬間追い詰められてるのはどっちだろうな」


そして、新二は秋人に真顔で話しかける。


「おい秋人。まさかとは思うが……お前、迷ってるのか?」

「りゅうくん……」

「このド変態偽善者に受けた仕打ちを、そして昨日俺たちとした約束を忘れたわけじゃないよな?」

「うん……忘れない。忘れるわけないよ」

「それだけじゃない。コイツをもしこの場で逃せば俺たちはきっと、いや確実に殺される。この『特別学級』ってのはそういう場所なんだ」

「うん……分かってる」

「なら迷う必要はねえ。俺がお前に伝える言葉はこれが最後だ。――自分と『オトモダチ』の命を守れ」