そして迎えた、テスト返却日。

『ペインター』先生は答案の束を持って、いつも通り能面の様な無表情で教室を見渡す。

顔中に熱した鉄の跡が残る新二や秋人を見ても、もちろん眉一つ動かさない。


「それでは一回目の定期テストの返却を行う。その後全員の成績順位表を黒板に開示し、最上位者を確認した上で『強制連行』を執行する相手を選ばせる。誰も選ばないことも複数人選ぶことも許されない。必ず生徒一名が今日……この『特別学級』から去ることになる」


水を打った様な沈黙が教室を包んだ。

まだ傷の癒えぬ秋人と新二も、ただ真っすぐに先生を見つめる凛香も、そして余裕の表情でほくそ笑む杉浦も……誰一人沈黙を破らなかった。

そんな異様な雰囲気もどこ吹く風で、『ペインター』先生は回答を前から順番に手渡しで返していく。

新二の席まで来るのにかかった時間はほんの一分ほどだったが、彼はその一分が永遠の様に感じられた。

『ペインター』先生は一度だけ切れ長の目で彼を一瞥してから、無言で運命の一枚を置く。

先生が離れると同時に、新二は貪るように自分の回答を裏返した。

――九十一点。ほぼ予想通りだった。

恐らく平均が五十~六十点程度であろうテストとしては、充分首位を狙える得点だろう。

だが、点数を確認するのは自分がどの程度勝算があるのかを図る行為に過ぎない。

本当の勝負はここから……この後公開される順位表で全てが決まる。新二自身や、この先の凛香の運命も。

杉浦の余裕を見る限り恐らく彼は絶対の自信があるか、もし新二が一位になっても自分を『強制連行』出来ないと高を括っているのだろう。

……だとしたら、残念ながらお生憎様だな。

もし杉浦をここで見逃したら、彼に屈服したことと同義だ。

この先も杉浦一味の駒にされた挙句、都合が悪くなれば切られる未来が透けて見える。それ以前に、彼が夏宮凛香の安全を保障していない時点でもう論外だ。

だからこそ、新二は何としても今回の一撃で彼を仕留めなくてはならない。



――例え、それがクラス全体を滅ぼしかねない非合理的な決断だとしても。