そんな彼女の華奢な腕を、同じくらい頼りない手が掴んだ。


「あ、秋人君っ……!? 良かった……! 目を覚ましてくれて……本当に……!」


喜びのあまり悪寒は吹き飛び、感極まって彼を抱きしめる。


「イタタタタタタ! イタイよ、りんちゃん!」

「あっ、ご、ごめん! 私嬉しくて……つい……!」

「……どうして泣いてるの? りんちゃんは悲しいの?」

「ううん、違うよ……嬉しいから泣いてるの」

「嬉しいのにどうして泣くの? それはいただきますを言うのと同じくらいヘンだと思います」

「それってどういう意味?」

「だってライオンさんは、僕を食べる時きっといただきますなんて言わないし思わないと思う。トラさんも、クマさんも、ワニさんも」


そう言って小首を傾げる秋人に、凛香は微笑んだ。

良かった――ここにいる秋人は、いつもの秋人だ。


「ありがとう……秋人君」

「え? どうしてお礼を言うの?」

「貴方は私を助けてくれた。こんな何の取柄もない私のことを、ただ友達だからっていう理由だけで」

「友達だからっていう理由以外に、何か必要なのでしょうか?」

「普通の人はきっとそれだけじゃ出来ないことだよ。だから――」


その時、秋人の隣から低い声が口を挟んだ。


「……だからお前はこんな掃きだめにいるんだよ」

「新二君……! 起きてたの?」

「今お前らの声で目覚めた。チクショウ……明日になれば動けるようにはなるが、恐らくこの有様じゃ杉浦のバカを殴れない」

「もう戦うとかそんなことはやめて。ここは大人しく杉浦君に従うしかないよ。そうすれば新二君は生かしてくれるんでしょ?」

「そんなの出まかせに決まってるだろ。万が一本当だったとして、奴がおま……誰かを好き勝手な口実で切り捨てていくのを傍観するくらいなら死んだ方がマシだ」

「そんなこと言わないでよ……」

「何を言おうが俺の勝手だ」


そう言ったきり、新二は拗ねた様に顔を反対側に背けた。