舌足らずな声が、彼の歩みを止めた。
「ぼ……僕が……僕が代わりにおしおきを受けます」
声の主……東雲秋人は、足をガクガク震わせながら杉浦の前へ進み出た。
一瞬の沈黙。そして――
「……は? 君、誰だっけ?」
「酷いよっ! クラスメートの名前くらい覚えてよねっ! 僕は秋人だよ、しののめあきと!」
呆けた表情を浮かべる杉浦に秋人が腕をブンブン回して抗議すると、彼は新二をチラリと見て合点が行った様に頷いた。
「ああ、君たち三バカの中でも飛び切りのおバカ君か。作戦会議の邪魔だから僕が追い出したんだった」
「あー、バカって言った! バカって言った人がバカなんだよ! それにりんちゃんは馬鹿じゃなくて僕のお姉ちゃんだし、りゅうちゃんはだるまさんだもん!」
「いつから凛香がお前のお姉ちゃんだテメエ! ……後だるまさんはやめろマジでやめろ」
何かを思い出して顔を震わせる新二を無視して、杉浦は秋人に挑発する。
「どうやら竜崎新二と夏宮凛香にえらく懐いているみたいだったが、まさか助けに来る勇気があるとは思わなかったな」
「おいお前、本気で言ってるのか……? 何の為にそんなことをする?」
新二までもが困惑と猜疑心が混じった口調で問うと、秋人は真っすぐに杉浦を瞳に捉えて答える。
「だって、りんちゃんは僕のオトモダチだから! オトモダチが困っていたら助けないといけないと思います!」
その返事に、杉浦は思わず失笑する。
「どんな大層な信念かと思ったら本当に幼稚園児なのかい? そんなに情に熱いなら、お前が以前いた学校でいじめられていた北里とかいう少年をなぜ助けなかった?」
「いじめられてるなんて知らなかったもん! だって、キタザト君は僕の前ではいつもニコニコしてたから! 周りのみんなも一緒にニコニコしてたから!」
「そこに君は何の疑いも持たなかったのか?」
「みんなニコニコしてるのにどうして疑うの? 悲しいことが起こっているなら、誰もニコニコなんて出来ないと思います!」
「……どうやら君は僕を怒らせに来た様だな」
杉浦の声色が急にドス黒くなった。
新二に相対している時に近い表情を浮かべて、秋人に詰め寄る。
「君のことは正直眼中になかったんだが、そこまで『信念なき姿』を見せられると流石に我慢ならない……いや待て、それでは私刑になってしまわないか……だが夏宮の身代わりという名目なら体裁は立つだろう……それなら僕の行動は正当化されるはず……」
「……おい、何ブツブツ言ってんだ?」
その時、それまで黙っていた新二が声を上げた。
「そこの天然記念物レベルのドアホが『オトモダチ』の為に身代わりになりたいって言ってんだ! さっさと凛香を解放してそいつをぶち込めよ! もしお前の正義とやらが邪魔してるなら教えてやる――」
「俺は――秋人のことを大切な友達だと思ってる」
その瞬間、秋人は新二を振り返ってパッと顔を輝かせた。
初めて、先生と凛香以外の生徒が自分の名前を呼んでくれた――
「ハハ……アハハハハハッ……」
同時に、杉浦も歓喜の表情と共に乾いた笑い声を漏らす。
もちろんその笑みは、秋人の笑顔とは全く違う意味だ。
「アハハハハハハ! 何て……醜い……!」
狂った様に笑う彼に、新二は吐き気を堪える様な表情になった。
「黙れ――それはお互い様だろうが」
二人のやり取りを理解できず、キョトンとした表情を浮かべる秋人……その華奢な腕を、杉浦はしっかりと掴んだ。
「さあ、君の望み通りにしてあげるよ……オトモダチはこっちだ」
「え、ホント!? ありがとう、お願いを聞いてくれて!」
「礼には及ばない。寧ろ……」
「お礼を言うのはこっちだ」
「ぼ……僕が……僕が代わりにおしおきを受けます」
声の主……東雲秋人は、足をガクガク震わせながら杉浦の前へ進み出た。
一瞬の沈黙。そして――
「……は? 君、誰だっけ?」
「酷いよっ! クラスメートの名前くらい覚えてよねっ! 僕は秋人だよ、しののめあきと!」
呆けた表情を浮かべる杉浦に秋人が腕をブンブン回して抗議すると、彼は新二をチラリと見て合点が行った様に頷いた。
「ああ、君たち三バカの中でも飛び切りのおバカ君か。作戦会議の邪魔だから僕が追い出したんだった」
「あー、バカって言った! バカって言った人がバカなんだよ! それにりんちゃんは馬鹿じゃなくて僕のお姉ちゃんだし、りゅうちゃんはだるまさんだもん!」
「いつから凛香がお前のお姉ちゃんだテメエ! ……後だるまさんはやめろマジでやめろ」
何かを思い出して顔を震わせる新二を無視して、杉浦は秋人に挑発する。
「どうやら竜崎新二と夏宮凛香にえらく懐いているみたいだったが、まさか助けに来る勇気があるとは思わなかったな」
「おいお前、本気で言ってるのか……? 何の為にそんなことをする?」
新二までもが困惑と猜疑心が混じった口調で問うと、秋人は真っすぐに杉浦を瞳に捉えて答える。
「だって、りんちゃんは僕のオトモダチだから! オトモダチが困っていたら助けないといけないと思います!」
その返事に、杉浦は思わず失笑する。
「どんな大層な信念かと思ったら本当に幼稚園児なのかい? そんなに情に熱いなら、お前が以前いた学校でいじめられていた北里とかいう少年をなぜ助けなかった?」
「いじめられてるなんて知らなかったもん! だって、キタザト君は僕の前ではいつもニコニコしてたから! 周りのみんなも一緒にニコニコしてたから!」
「そこに君は何の疑いも持たなかったのか?」
「みんなニコニコしてるのにどうして疑うの? 悲しいことが起こっているなら、誰もニコニコなんて出来ないと思います!」
「……どうやら君は僕を怒らせに来た様だな」
杉浦の声色が急にドス黒くなった。
新二に相対している時に近い表情を浮かべて、秋人に詰め寄る。
「君のことは正直眼中になかったんだが、そこまで『信念なき姿』を見せられると流石に我慢ならない……いや待て、それでは私刑になってしまわないか……だが夏宮の身代わりという名目なら体裁は立つだろう……それなら僕の行動は正当化されるはず……」
「……おい、何ブツブツ言ってんだ?」
その時、それまで黙っていた新二が声を上げた。
「そこの天然記念物レベルのドアホが『オトモダチ』の為に身代わりになりたいって言ってんだ! さっさと凛香を解放してそいつをぶち込めよ! もしお前の正義とやらが邪魔してるなら教えてやる――」
「俺は――秋人のことを大切な友達だと思ってる」
その瞬間、秋人は新二を振り返ってパッと顔を輝かせた。
初めて、先生と凛香以外の生徒が自分の名前を呼んでくれた――
「ハハ……アハハハハハッ……」
同時に、杉浦も歓喜の表情と共に乾いた笑い声を漏らす。
もちろんその笑みは、秋人の笑顔とは全く違う意味だ。
「アハハハハハハ! 何て……醜い……!」
狂った様に笑う彼に、新二は吐き気を堪える様な表情になった。
「黙れ――それはお互い様だろうが」
二人のやり取りを理解できず、キョトンとした表情を浮かべる秋人……その華奢な腕を、杉浦はしっかりと掴んだ。
「さあ、君の望み通りにしてあげるよ……オトモダチはこっちだ」
「え、ホント!? ありがとう、お願いを聞いてくれて!」
「礼には及ばない。寧ろ……」
「お礼を言うのはこっちだ」